ある方からこんな話を聞いた。その方は仕事に失敗する毎に環境の悪い家に移り住み、ついに社会からはみ出した人たちばかりが住むアメリカのスラム街のような所に住み着いた。
しかしそこには、助け合わねば生きていけぬ環境の中で、手を取り合い、互いに助け合う心が残っていた。
それはまた物のなかった戦時中の日本での貧しさの中で、茶碗一杯の醤油や、米一合を借り合い、阪神大震災の最中では、日本全国の人々が応援に駆けつけ、被災者たちは病人や老人を労わりながら、一致団結して復興に力を合わせた心と似ている。
ごく最近のイラク戦争でも、罪もなく唯一被災したのはイラクの一般庶民で、死んだ人や家族を我がことのように、嘆き悲しむ隣人や庶民の心は一つにつながっていないだろうか?
しかし今の豊かさの中での日本では、互いが互いを思いやる心など微塵もなく、隣りに盗賊や強盗が入っても、助けるどころか我が身の安全を計ることに汲々とするだろう。だからいう、この世の環境の地獄こそ人の心は天国、天国こそ人の心は地獄だと。
思うように中々いかないこの世なればこそ、苦しみ多いこの世なればこそ、悲しみ多いこの世なればこそ、淋しく心細いこの世なればこそ、人は人と睦み合い、労り合い、励まし合い、支え合って生きていかねばならないのだ。